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おすすめ人 この1冊 こんな本です
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2025.2.26


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許されようとは思いません
芦沢央/著
新潮社

日本推理作家協会賞短編部門にノミネートされた芦沢央さんのミステリー小説です。
人の心の暗~い部分を描いた短編集で、“イヤミス感”の強い5作品が楽しめます。

その中で私の印象に残った「目撃者はいなかった」と「姉のように」を紹介したいと思いますが、まずは簡単なあらすじを載せましょう。

「目撃者はいなかった」
常に営業成績が最下位の葛木は、本来の注文の11倍もの数を誤発注していたことで営業成績が一気に上がり、上司から褒められることに。
“誤発注でした”と素直に告白できず、嘘を重ねてミスをなかったことにしようとするが、隠ぺいの途中で偶然目撃してしまった“ある出来事”のせいで、どんどんと窮地に追い込まれていく…

「姉のように」
小さい頃から頼りになり、常に相談役になってくれていた姉の逮捕によって、心の拠り所が無くなってしまった主人公は、周りから“犯罪者の妹として見られているのではないか?”という懐疑心に苛まれる中、イヤイヤ期真っ只中の娘に対しストレスが溜まるばかり。
“今ここで手を上げたら、姉と同じになってしまう”と、どうにかして子供と距離を置こうとするが…

どちらの作品も、読み始めからすぐに主人公が“私自身”に置き換わるくらい他人事とは思えず、どんどん追い詰められていく感じが良い意味で辛かったです。

「ミスをしたら、さっさと謝罪するべき!」と分かっていても、ミスが大きければ大きいほど、葛木のように「どうにか上手く隠せる方法は無いか?」と先に考えてしまうのも人間らしい心理。上手く隠せそうな方法が閃いてしまったら尚更です。
隠したい一心から生まれた嘘→矛盾→嘘→矛盾の繰り返しで窮地に立たされていく葛木に対し「今からでも遅くないから、正直に話しちゃいなよ!」と、何度突っ込みを入れたことか…
最終的に彼は案の定(?)、取り返しのつかないことになります。
「やっぱり嘘はついちゃいけないな」と、いい教訓になりました。

「姉のように」は、姉の逮捕と子育ての壁に挟まれる女性の苦悩がかなりリアルで、自分に両方の経験が無くても、心が抉られるような内容でした。
私は姉とは違う、私が罪を犯したわけじゃない、だから人の目なんて気にしない。少しでもそう割り切れたなら、旦那や娘ときちんと向かい合うことができたのではないか?というもどかしさもありますが、心折れる出来事が繰り返されるほど、頭の中はマイナスにしか働かなくなるものなのでしょう。
自分も主人公と同じ道を辿りそう…と背筋がゾクっとしました。

この短編集はイヤミス感が強く、読んでいると苦しくなる作品が多いので、その手のお話が好きな方にはオススメです。
また、芦沢央さんは以前このコーナーで紹介した「悪いものが、来ませんように」を含め、どんでん返しがすごい作品を描くのがとても上手な作家さんなので、衝撃的なラストを求めている方にもぜひ読んでいただきたいです!

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